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戦場のコックたちを読んだ

「戦場のコックたち」を読んだ


 この前、何かオススメの本は無いかと知人に聞いたところ、勧められたのがこの本「戦場のコックたち」だった。知人は海外小説をよく読むので、タイトルを聞いた時は、「ああ、世界大戦の海外小説か。コック?ってことは、戦場での少ない補給品を材料に、試行錯誤で素敵な料理を作り出していく腕利きなコックの話かしらん」とか思ってた。

 思っていた……が、三重の意味で裏切られた。日本生まれの本だし、主人公、コックはコックだけどバリバリに戦うし、素敵な料理が出てきて飯テロ…な本などではまるでない(勿論、飯テロシーンもありました)。重い、厚い、苦しい本だった。けど、ぐいぐい引き込まれて、怒涛の勢いで読んでしまった。すんごいです。この本。



以下、ネタバレ入ります⤵


 すんごいポイントが三つほど。

 一つ目。この本は第二次世界大戦に志願したアメリカ兵が主人公なんだけど、最初に軽めの推理から始まって、読者をちょっと油断させておいてから、だんだんWW2の暗い影がチラチラと覗いてくるのに気づく。後半に進むに従って、主人公の心境変化と同時に、戦争の悲惨さとか、やりきれなさが前面に押し出されていくのだ。読んでいくこちらの身としては、騙された!というか、朗らかに始まった遠足がいつの間にやら沼に入っててそのまま正面向いてずぶぶぶ…という感じ。抜け出せません、止まれません。

 二つ目。登場人物一人一人が、深い。過去とか、個性とかがとんでもなく緻密。一人だけじゃなくて、人物同士の関係性も深い。例えば、第二章で主人公がエドに、祖母に叱られた思い出を話すシーン。ティムの言葉「祖母は……時々僕を心配そうな目で見るようになった。」。これってつまり「思い出」とは書いたけど、この経験は、英語風に言うと過去形じゃなくて現在完了形。昔の後悔話じゃなくて、現在にまで繋がって影響してる。主人公の、人格設定に欠かせない存在の祖母でさえ、「料理のきっかけを与えてくれたお祖母ちゃん」っていう一筋縄では解釈できない所がこの本のおそるべき点。

 三つ目。主人公の思考の変化がものすごく生々しい。一人称で書かれているので、地の文から、主人公の変わり様を客観的に見れたりはしない。それでも戦争が、ティムを少しずつ変化(良いとも悪いとも分からん)させていってるのが分かる。その変化に、心強くも、泣きたくもなる。

 個人的に一番強烈だったのが、第四章、ティムの「新参兵は本当にすぐ死ぬ」の言葉。ちょっと前まで志願するか迷ってた17歳のガキんちょだったくせに!お前もパリパリの新参兵だったくせに!と突っ込みを入れたくなるその反面で、今までの戦いが、ティムに軍人としての経験値を与えたことへの感慨と、躊躇いも無くこの言葉を発してしまう、死への順応とか恐怖心の鈍化に対して、悲しさがダブルパンチで襲ってきて、読者側としては、もう心が忙しい…。忙しいよティム…。


 読んでいる最中で、ところどころバンドオブブラザーズを思い出しながら読んでいたんだけど、あとがきや参考文献を読んで、ぴったんこ。作者の深緑野分さんはこの本を書く際、バンドオブブラザーズを最重要な文献の一つにしているらしかった。DVDを見たのは何年も前だけど、ヒトラーのワインセラーのシーンとかをよく覚えてる。あ、最後に一つだけ自慢。主人公ティムが分からなかった敵軍のドイツ語、私分かったよ。


引用・参考文献


深緑野分(2019)『戦場のコックたち』 東京創元社

『バンド・オブ・ブラザーズ DVDコレクターズボックス』ワーナー・ホーム・ビデオ


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